私の故郷である四国・愛媛県は、温暖な気候と豊かな自然、そして歴史ある文化資源に恵まれた地域です。中でも観光業は、県の代表的な産業の一つとして地域経済を支えています。例えば、日本最古の温泉とも言われる「道後温泉」、瀬戸内海の多島美を望む「しまなみ海道」、そして松山城や内子町の歴史的町並みなど、訪れる人々を魅了する観光地が数多く存在します。
こうした観光地の魅力を最大限に引き出し、より多くの人々に届けるためには、観光に関する技術の進化が欠かせません。近年では、AIやIoTを活用した観光案内、ARによる歴史体験、スマートフォンアプリによる地域回遊の促進など、観光体験を豊かにする技術が次々と登場しています。
本記事では、観光業に関連する技術の動向について、特許情報をもとにその傾向把握を試みました。観光とテクノロジーの交差点には、どのような未来が広がっているのでしょうか。
観光に関する特許出願状況について
【検索式】観光に関するキーワード
今回は技術分野を特定しないよう、敢えてIPCは使わず、観光に関するキーワードを使った検索式としました。
(あくまで傾向把握なので、かなり大味な式です)
検索項目 | 式概要 | 備考 |
キーワード | ((観光 OR 旅行 OR ツーリズム OR ツアー ) NOT (+剤)) /TI/AB/CLMS | 直接的なタームが請求項又は要約に入る 旅行者下痢症等製剤はノイズとして除く |
期間 | 出願日10年遡及(出願日が2015/5/19以降のもの) | 直近10年に絞る(新しいものに主眼) |
発行国 | 日本(JP) | 国内出願のみ |
論理式 | ((観光 OR 旅行 OR ツーリズム OR ツアー ) NOT (+剤)) /TI/AB/CLMS AND JP AND (出願日>= 2015-05-19) | Hit数:1711件 (内、生:1539件) |
観光に関する特許出願の状況
①出願人の出願数トレンド
トップ出願人20社による直近10年の出願数推移を下図に示します。
大手の自動車メーカーや電機メーカーが名を連ねるところ、明らかに様子のおかしい出願人が確認されます。お分かりの通り、その出願人とはソフトバンクグループであり、特に2023年には356件と大量に出願しています。

②筆頭IPCのトレンド
上位10の筆頭IPC(=主に独立クレームの発明分野)の出願数推移を下図に示します。
ICTに関するIPCが概ね占めています。「観光DX」という言葉がトレンドですが、まさにそれが表れています。
ちなみにICTとは、Information and Communication Technology(情報通信技術)の頭文字をとった略語であり、情報の収集、処理、保存、伝達を行うための技術の総称です。その代表的な技術として、生成AIや、DX;デジタル技術を使ったプロセス等の革新があります。
※特に観光分野においてトレンド技術分野(IPC)
・G06Q:管理、金融等に適合したICT技術
・G01C:距離、方位の測定等に関する技術
・G08G:交通制御システム
・G06F:デジタルデータ処理技術

③出願人別の筆頭IPCの分布
上位出願人別の筆頭IPC分布を下図に示します。
図1の出願数と見比べても、本母集団における上位出願人の出願は概ねICT系の出願であることが分かります。
G06Q系(主に管理システム)が最も主流であり、その中でもソフトバンクがぶっちぎりで出願数が多いです。
※あくまで本母集団においては、ですが。
一方で、G06Qとは別のIPCであるG01C系(主に地図)、G08G系(交通信号制御等)において、それぞれトヨタ自動車、住友電工等が力を入れていることが確認できます。

④ソフトバンクグループの出願内容について
ソフトバンクは2023年10月ごろから、AI(人工知能)に関連する発明の大量出願を表明していることもあり、上記の状況もこの一連の範疇であると思われます。
※参考:ソフトバンクGの特許が2日で⼀挙に3500件超公開、発明の名称と出願⼈から浮かぶ焦点 | 日経クロステック(xTECH)
では、観光分野におけるソフトバンクの技術はどのようなものなのでしょうか。
ソフトバンクのG06Q-50(346件)の出願について、テキスト分析したものを下図に示します。
なお、本母集団におけるソフトバンクの出願は、全て「出願係属中(審査待ち)」となっています。
特許出願の集合における上位の頻出タームが示されていますが、人工知能(Artifical Intelligence)、チャットボット(Chatbot)、データ生成(Data generation)等の生成AI系のタームが確認できる一方で、
感情マップ(Feeling map)、感情の見積り(Estimating feeling)、感情エンジン(Feeling engine)といった、「感情」に関するタームも同等程度挙がっています。
その他、スピーカー(Speaker)や、発話(Utterance)といったタームも併せて考えると、生成AIが気を遣ってくれて、人間の感情をコントロールしてくれるような技術のイメージでしょうか。

出願の一例(JP2025-050677A)を紹介すると、以下のようなものがあります。
以下に課題とクレームを示しますが、例えば、AIにユーザーの発話や音声、表情のデータをインプットして、感情や気分を解析する(以下の感情マップデータを生成する)。その解析したデータに基づいて、ユーザーに対して飲酒や旅行に関する情報を提供することで、ユーザーは寂しさを感じることなく飲酒や旅行を楽しめる、といったものです。
機械が感情を持つようになる…、子供の頃に読んでいたSFの世界がすぐそこまできているのでしょうか。
【課題】
本発明は、飲酒や旅行における寂しさを解消するため、対話ができるAIを提供することを目的とする。
【クレーム】
対話ができるAIと、飲酒することが寂しいと感じるユーザーとを結び付ける手段と、一人で旅行することが寂しいと感じるユーザーとを結び付ける手段とを含むシステム。
【感情マップの図(図10)】

まとめ
観光に関する技術開発は、主にICT分野の技術である=観光DXが進んでいることが確認できました。
具体的には、G06Q:AIによる観光サポートや予約システム等、G01C:位置情報、地図に関するシステム等の技術が挙げられます。
その中でもソフトバンクは生成AIを活用した発明を短期間に大量に出願していることも確認できました。
(さながら、戦争において先に拠点を占拠して砦を築いているようです)
特に、対話型の生成AIがおもてなし?してくれるシステムとは、面白い内容でした。
(観光だけとは言わず、)一人事務所で仕事をすることは孤独との闘いなので、このAI、導入できないかな…