ICT(情報通信技術)とは?
ICTの概要
ICTとは、Information and Communication Technology(情報通信技術)の頭文字をとった略語であり、情報の収集、処理、保存、伝達を行うための技術の総称です。ICTにおける①インターネットによる通信技術や、②情報処理のコンピューティング技術、③PCやスマートフォンに代表される端末などの入出力技術は、いずれも加速度的に進展を続ける分野です。
①通信技術:30年以上前の1Gであるアナログ式から、近年5G技術まで進展することで高速通信が可能となり、現代は、通信速度が当初から数万倍に向上し、大容量データの送受信も可能となっています。
②コンピューティング技術:半導体の集積度の飛躍的な向上(ムーアの法則:2年ごとに集積度が倍になる)より、CPUの計算能力は当初より数百倍となっています。
③入出力技術:当初は3kg近くあったショルダーフォンは、上記コンピューティング技術の進展や革新的な技術のコンバージョンにより、現代はスマートフォンとしていつでもどこでもインターネットに繋がれる端末が登場しています。
ICTを用いて特に発展している分野
上記の通り近年急速に発展するICTは、例えば以下のような分野に活用されています。
今回は愛媛の主産業の一つである農業にICTを活かした実例と特許を調べてみました。
IoT (Internet of Things)
IoT(Internet of Things)とは、インターネットを通じてさまざまな「モノ」がつながり、情報をやり取りする技術のことです。スマートフォンやパソコンだけでなく、家電、車、工場の機械など、あらゆるモノがインターネットに接続されることで、新しい価値やサービスが生まれています。
製造業(スマートホーム/ファクトリー)、農業、ヘルスケアなど、多くの分野で活用されています。
AI (Artificial Intelligence / 人工知能)
AIは、コンピュータが人間のように学習し、判断する能力を持つ技術であり、生成AI、機械学習やディープラーニングなどが含まれます。AIは、データ解析や自動化などのサービスの提供に役立っています。
特に生成AIについて、ソフトバンクグループが関連特許出願を直近で1万件以上実施していることが報道されています。
https://www.nikkei.com/prime/tech-foresight/article/DGXZQOUC282YZ0Y4A620C2000000
DX (デジタルトランスフォーメーション)
企業の業務プロセスやビジネスモデルを、ビックデータやデジタル技術を用いて革新する取り組みを言います。
これまでのIT化は主に業務効率化に主眼が置かれていましたが、DXは事業創発や業務変革を通じて企業成長を目指すといった、デジタルを経営そのものに活かそうとするものです。
DXの例として、デジタルツイン;収集した膨大なデータを用いて実際の環境をコンピュータ上で再現する技術のことで再現した場で仮想試験などを行うことが可能となるものや、MI(マテリアルインフォマティクス);機械学習によって材料開発の効率を高めるものがあります。
ICTを活かした農業の例について
IoTを農業に応用することは「スマート農業」と呼ばれ、例えば、土壌の水分量や気温、湿度をセンサーで測定/管理することや、更にその先に最適な灌漑や施肥といった運用まで活用することもあります。これにより、作物の品質向上と生産効率の向上が図られます。
愛媛県でも積極的にスマート農業を取り込んでおり、以下のような事例が一般に公開されています。
愛媛県のスマート農業の例
柑橘類の腐敗を画像解析・AIで選別(愛媛県)
収穫した柑橘類の病気や浮皮等の品質評価は現状目視検査で行われていますが、属人的な評価バラつきがあり、例えば評価抜けにより本来不合格のものが市場に流通してしまうケースがありました。この課題に対して、画像解析とAI技術を用いた自動選別手段が愛媛県で開発されています。
画像認識とAIで柑橘の腐敗を選別、防止──愛媛県のスマート農業事例 | 農業とITの未来メディア「SMART AGRI(スマートアグリ)」 (smartagri-jp.com)
畑にセンサー埋め込んだミカン畑(八幡浜市)
愛媛県八幡浜市のミカン畑(JAにしうわ)は、畑にセンサーを埋め込んで土壌の水分量を把握し、水まきのタイミング含めて管理しています。経験や勘に頼る、ある意味職人技である水まきのタイミングをデータの測定・モニタリングによって管理運用することで、ミカンの収穫量と質を高めることを目指しています。将来的には、スマートフォンで土壌の水分量を管理、遠隔での水まきによる運用システム構築を検討しているとのことです。
ミカン栽培にICTを活用土壌水分を把握し品質向上へ (愛媛・八幡浜市) | 愛媛のニュース – Nスタえひめ|あいテレビは6チャンネル (1ページ) (tbs.co.jp)
棚田をドローンで管理運用する(大洲市/樫谷棚田)
樫谷棚田では、ドローンを用いた農薬散布で農家の負担を減らす取り組みをしています。
大洲市の樫谷棚田にて、同市の松田包装(株)がドローンを使って棚田の農薬散布を検討しており、負担の少ない棚田維持のシステムを目標として取り組んでいます。
ドローン自体にセンサーを搭載したり、上記センシング技術と組合せることで、更なる発展が望めそうです。
樫谷(かしだに)棚田|愛媛のたなだん (ehime-tanadan.jp)
ICTを活用した農業関連特許と重要特許の絞り方について
ICTを活かした農業に関する特許を調査してみましたので、その概要と、併せて重要特許の絞り方を紹介いたします。
検索式
今回は主にIPC(国際特許分類)を用いて検索式を立ててみました。以下、今回用いたIPCです。
<①ICTに関連深いIPC>
- G06F:電気的デジタルデータ処理
- G06N:特定の計算モデルに基づく計算装置
- G06Q:管理、商用、金融、経営、監督目的に特に適合したICT
(特に直接的なIPCサブグループ=G06Q-10/05:農業向けICT) - G16Y:IoTに特に適合されるICT(IoT関連技術全般をカバーする新しい分類)
(特に直接的なIPCサブグループ=G16Y-50/02:農業向けIoT) - H04L:デジタル情報の伝送
<②農業に関連深いIPC>
- A01B~M: 農業に関連する分類(例えば、土作業や植え付け、収穫など)
- B09B:廃棄物の処理
- C07:有機化学(農薬や肥料の化学合成を含む)
- C12N:微生物または酵素を使用したプロセス
- F24J:太陽エネルギーの利用(農業用温室の加熱など)
IPCに関する検索式としては、以下の通りです。
(G06Q-10/05 or G16Y-50/02) or (① and ②)
※直接的なIPC;G06Q-10/05、G16Y-50/02の集団と、上記①×②の集団(①、②内のIPCはor)
上記IPCに加えて、出願日が10年以内のもの×「生」のもの(出願係属中 or 登録)×日本出願としました。
重要特許の絞り方
調査結果の前に、パテントマップ(俯瞰情報)から詳細を確認すべき重要特許を絞る際の項目を下記します。
特に今回は、1.出願人/権利者と、2.技術分野の観点から絞ってみます。
- 出願人/権利者:調査対象:競合企業や意図する地域企業で絞る。
- 技術分野:調査したい技術詳細をIPCやFタームの下層で絞る。
- 多く引用されている出願:基本技術であったり、多くの企業が実施する技術の場合が多い可能性がある。
- 早期審査⇒登録特許:早急に保護したい=重要技術である可能性がある。
- 異議、無効、訴訟対象の出願:複数の企業が実施(検討)している可能性がある。
調査結果
母集団の俯瞰
<トップ出願人の出願数/左のグラフ>
トップ出願人は、大手の農機具メーカーであるクボタ、ヤンマー、井関農機に加えて、公的機関である農業・食品産業技術総合研究機構であり、特にクボタは登録特許数が群を抜いて多いです。
<出願技術分野のトレンド/右のグラフ>
出願の多い技術分野(IPC)として、検索条件の主なインプットであるG06やG16を除けば、以下のような農業関連IPCの出願が多い傾向が見られました。IPCの並びをみると、特に稲作に関するものが多そうです。
- A01G-007:植物生態一般(農作物の生育、管理など)
- A01B-069:農業機械または器具の操向
- A01D-041:家畜用具(家畜の生育、管理など)
- A01K-029:コンバイン
【絞り込み】 愛媛県の出願人/権利者 × 特定の技術分野
次は、愛媛県に本社を有する出願人/権利者に絞って、出願の技術分野を見てみます(以下のグラフ)。
全体の出願数トップ5にも入っている井関農機が圧倒的に多いですが、愛媛県や愛媛大学といった公的機関も数件ですが出願しています。この中で、上述したプレスリリースされているような技術の関連特許を確認すべく、愛媛県による出願と、井関農機のB64C-039(ドローン関連)出願の2つを詳細に見てみます。
①愛媛県(庁)の特許:JP6738075B1(ミカン評価装置/システム)
本特許の請求項1に係る装置を要約すると「ミカンを撮像した画像データとその品種情報を、予め取得し生成した参照データベース(;画像と品質の連関性)に照らし合わせて評価し、該ミカンの品質情報を出力する装置(下図参照)」であり、ミカンの品質評価の精度向上を目的としたもので、まさにプレスリリースの技術そのものでした。
下位請求項には、「連関性は、過去の評価対象情報と、参照情報とを学習データとして用いた機械学習により構築される(一部略)」とあり、生成AIによって参照データベースが構築されることが規定されています。
私の祖父母もミカン農家だったので、小~中学生の年末年始に収穫を手伝っていたのが懐かしく、祖父母が目視・手作業で合格品と欠陥品を仕分けていたことを覚えています。農家の高齢化が深刻となってきている中、属人的な部分の排除や人手不足に対するブレークスルーとなることを願っています。
②ドローンに関する特許:JP7315897B2(ドローンを利用した作業車両の自律走行システム)
次は井関農機のドローンを農業に活用した特許です。上記プレスリリースのドローンを用いた棚田の農薬散布とは異なる技術ですが、ドローンによるセンシングと農作業に資する動作といった点で共通するところは多いです。
本特許の請求項1に係るシステムを要約すると「作業車両(例えばコンバイン)と車両に随伴するドローンを備えており、ドローンにより障害物の検知と、障害物が動物であると判別した場合に除去する(追っ払う)システム」で、作業車両における作業の効率化(回避行動の低減)を目的としています。
ドローンによって、これまでのカメラ等でのセンシングに比して鳥などの動物も精度よく判別できるそうです。
近くにドローンが寄ってきて検知され出したらちょっと怖いですが、心拍パターンで動物と人間の区別も可能とのことです。
子供の頃にやっていた戦闘機のシューティングゲーム(グ○ディウス?)に、こんなオプションがあったような。
全然ジャンルは違いますが、昔の妄想は、どんどん現実になりつつありますね。