特許の活用について(中小企業の事例編) 

特許の機能
目次

特許の機能/活用について

多くの中小企業の経営者にとって、特許は重要という意識はある一方で、「特許を取って何になるのか?」、「コストに見合う見返りがあるのか?」という疑問を持たれている方は多いかと存じます。

最も重要な特許の機能としては、法目的にもあるように発明の「保護」及び「利用」があります。

  • 「保護」: 特許として登録された発明の実施する権利を一定期間専有(独り占め)させる
  • 「利用」: 発明を公開することでその内容を広め、権利期間経過後は自由に実施させる

それ以外にも、以下機能を有しています。

  • 「マネタイズ」: 特許発明を他社にライセンスや譲渡することで直接的な収益を得る
  • 「信用」: 特許技術を公示することで、製品や会社の信用向上、認知獲得につなげる
  • 「人材」: 特許取得等を通じた人材育成、人材獲得や流出防止を図る

上記特許の機能概要ついて、下図にまとめます。

特許を活用している中小企業の例

企業の特許活用例は、知的財産に関する複数の団体のWebサイトで紹介されています。
今回は、特許庁HP内に開示されている以下の中小企業の活用事例を紹介します。

(特許庁HP)https://www.jpo.go.jp/support/example/index.html
   ⇒知的財産を経営に生かす知財活用事例集「Rights」 ~その価値を、どう使うか~

特許活用企業の概要まとめ

知財活用事例集「Rights」は計20社の中小企業の知財活用例が紹介されていますが、主に特許に焦点を当てている事例を下表にまとめました。

社名(略称)
業種
知財
法域
活用
項目
活用概要
アシザワファインテック
微粉砕機・分散機製販
特許利用自社技術の新規参入先(お客様の技術)を特許からつかんで展開
特許をマーケティングに活用
ピカコーポレイション
はしご、脚立製販
特許
意匠
利用
保護
・関連する特許公報を自社でDB化して検索効率化、先行文献調査を徹底して「1製品1権利」で特許ポートフォリオ構築
・意匠権侵害訴訟の経験や税関での差押えにも有力な意匠にも注力
ジンノ工業
配管・設備工事請負等
特許利用マイクロバブル洗浄技術について、先行特許文献に自社技術を+αする
ことで開発成功、特許化も
フジワラテクノアート
醸造・食品機械等製販
特許保護模倣品防止のために原則出願
一方で社内セキュリティポリシー等で営業秘密の漏洩防止
興研
マスク製販
特許利用
人材
・「世の中に無く真に役立つ」ビジョンと整合する特許出願を重視
発明評価制度を通じて技術者の意識を高めつつ、技術開発を促進
金剛
文化施設設備等の製販
特許
意匠
保護
人材
・特許による差別化技術を強味に入札獲得、信頼による取引継続
・外観による侵害該否判断が容易な意匠も積極出願
・弁理士事務所との協働による知財人材育成
金井重要工業
繊維機器・不織布の製販
特許人材知財管理技能士試験の奨励、勉強会実施による知財意識の向上
落合ライト化学
ロードセイフティー
特許保護
信用
現場は特許のネタの宝として発掘
特許を技術PRとして使う
システムスクエア
異物検査機の製販
特許保護実施事業をカバーできるように特許化して実施の自由度を確保
オーレック
農業機器の製販
特許
意匠
利用
人材
信用
・「世の中に役に立つものを誰よりも早く創る」ビジョンと整合する特許出願を重視、現場はオリジナリティの源
・機能(特許)×デザイン(意匠)によるブランディング
シェルター
木造建築設計・建材開発
特許
意匠
保護・特許権は攻めではなく守りのため(自社実施の担保
・基本的な特許は取得しつつ、意匠取得による権利の外縁確保
昭和
チタン・高耐食食器の製販
特許保護
人材
・特許権=技術の差別化を示すもの=会社のアイデンティティ
・会社を権利者として特許を保有することで人材流出防止
ハイスキー
機能性食品の製販
特許保護
信用
・特許化した自社技術に付加価値を付ける
・特許をPRすることでブランド力や販売力を向上
ジーアイシー
建設システム開発等
特許利用
信用
他社の開放特許を利用したビジネスマッチング、それによるPR

中小企業の特許活用の傾向

上記で取り上げた企業活用例における特許の機能(活用項目)別の割合を下図に示します。

特許の主要機能である「保護」、「利用」と同等程度に、「信用」、「人材」といった機能が挙がっていました。一方で、特許による「マネタイズ」はゼロでした。

また、詳細を読んで特に面白いと考える項目を下記に示します。

  • 先行特許文献を読み込むことでシーズの深堀、ニーズの深堀、又はその両方により、特許をマーケティングに活用する企業が少なからずある
  • 特許化の目的は、自社実施の担保がメイン多い
  • 特許を商標のような品質保証機能を訴求する「ブランド」として活用している
  • 「世の中に無い役に立つものを創る」ことをビジョンとする企業が多く、そのビジョンと特許は整合性が良い
  • 特許は「現状の課題」→「解決方法」→「具体的手段」といったロジカルな記載となっている、かつ特許法の趣旨自体がビジネスを基としていることもあり、知財教育を通じて社内のビジネス・技術教育に活かしている
  • 特許と併せて、外観で侵害の該否判定がし易い意匠権を取得する企業が多い

さいごに

中小企業の特許活用を確認しましたが、一部企業は特許をマーケティング、ブランディングや人材教育/確保にも用いており、その活用が進んでいることが確認できました。

一方で、特許による(本質である)排他や、ライセンスビジネスに用いている企業は少なく、ここは課題であると感じました。実施規模の小さい中小企業は、大企業に比して逸失利益による損害が少なく、特許権による交渉/行使が本来し易いハズです。

規模や範囲の経済を十二分に活用する大企業に対して、中小企業は本質的な技術を抑えた特許権によって、その利を活かして欲しい、自身としてはそれに貢献していきたい想いです。

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