前回は地元愛媛県の特許出願概況をパテントマップを使ってまとめてみました。
https://suepat.com/2024/05/11/patent-about-ehime/
その中で、近年出願数が増加傾向にある技術分野として、ICT(情報通信技術)が確認できました。
ICTについては、愛媛県でも多くのスタートアップが対象している事業です。
今回は、愛媛県のICT関連スタートアップの特許出願と、愛媛県内のICT特許出願の概要について確認しました。
愛媛県のスタートアップについて(スゴVen.)
愛媛県では、愛媛グローカル・フロンティア(EGF)プログラムという施策を創業支援の一環として実施しています。
https://ano-kono.ehime.jp/ehime-glocal-frontier/
該プログラムでは、県内発の独創的なビジネスアイデアに対して、経営のプロやベンチャーキャピタルとのマッチングによる育成策を実施し、愛媛のスタートアップ創出を図っています。
このプログラムを経て成長した企業の一部について、「愛媛が誇るスゴVen.」データベースで公開されています。
https://www.pref.ehime.jp/page/4688.html
スゴVen.掲載企業の業種は、製造業、卸売/小売業等さまざまですが、その中でも情報通信業が多く挙がっています。
下表にスゴVen.掲載企業の概要と、該企業の特許出願数を示していますが、情報通信業のうち特許出願をされている企業は無い状況です。
※検索ツール:JPlatPat、検索条件/出願人:”各社名” AND 出願人住所”愛媛県”、検索日:”2023/11/1″
愛媛県のICT特許出願の検索条件
検索条件は、以下の通り、前回の条件に3点目を追加しました。
- 出願人(権利者): 本社住所が「愛媛県」であること
- 期間: 直近10年以内の出願(2015/1/1以降の出願)
- IPC;国際特許分類: G06Q(ICT利用発明)
調査ツールは、引き続きOrbit Intelligenceを用いました。
(Orbitのサイト) https://www.questel.com/ja/patent/ip-intelligence-software/orbit-intelligence/
愛媛県のICT特許出願の概況 + スタートアップの出願
ICT特許出願のトレンド
出願数のトレンド
出願数トレンドの縦棒グラフ
(出願人で色分け)
・2017年以降顕著に増加して30~50/件出願
・他のIPCと同じく、出願の多くは大企業が占める
IPCを細部までみてみる
IPCサブグループのヒートマップ
(IPCはセクション/クラス/グループの階層構造でグループが最も細かい)
・スゴVen.に関連深い以下IPCに着目
・G06Q-050/10:サービス等
・G06Q-030/02:マーケティング等
・G06Q-030/26:公共サービス等
・概ね大企業単独の出願であるが、上記IPCを有しているユニ・チャームとBABY JOBの共同出願に着目
BABY JOB(大阪のスタートアップ)のICT特許出願について
BABY JOBとそのサービスについて
上記の通り、検索母集団における出願は概ね大企業によるものですが、その中で、スタートアップであるBABY JOBが関連している出願(ユニ・チャームとの共同出願)を確認しました。BABY JOBは愛媛では無く大阪のスタートアップですが、ICTを利用した事業を特許取得しつつ進めており、参考になるかと存じますので取り上げます。
BABY JOBは、2018年10月創業のスタートアップであり、子育て支援事業と保育園サポート事業を手掛けています。
https://baby-job.co.jp/
取り上げる特許JP6987115B2は「手ぶら登園」というサービスのシステムに係る発明であり、ユニ・チャームが該システムを導入しています。このサービスは、サービスイノベーション2022に選出された優れたシステムのようです。
https://baby-job.co.jp/2022/02/02/news-20220202/
特許について (JP6987115B2)
上記の特許の一つ;JP6987115B2「提供装置、提供方法及び提供プログラム」について示します。
なお、本特許は既に実体審査を経て登録されています。
<発明の目的(効果)>
この発明は、園児をもつ親がおむつを保育園に直接持っていくこと無く、保育園とおむつ提供元とが直接在庫管理/供給して、使用したおむつ分の料金だけ払うようにしたものです。
この発明によって、親はおむつを保育園に持っていく手間が省けますし、保育園は各園児の親に対して必要なおむつ数の連絡をする手間が省けます。また、提供元はおむつを定期購入してもらえるので、3者win-winのシステムです。
まさに、①業界課題 × ②社会課題 × ③オープンイノベーションを体現した特許(事業)だと思います。
<発明の構成>
以下に本特許における【図1】を示しつつ、特許発明を本質部分に絞って説明します。
発明の肝となる部分は図面中太い黒枠で囲った装置10です。
装置10は以下3つの機能を有しますが、その3つの機能を有する装置(モノ)自体と、それを実行する方法、プログラムについて、それぞれ独立クレームとして特許化しています。
- 保育園からおむつの使用情報を取得する
- 親から支払い情報を取得する
- おむつ使用情報と支払い情報をおむつ提供元に提供する
これらの機能を有する装置10が、保育園/親/おむつ提供元のハブとなることによって、上記効果が達成できることはお分かり頂けるかと思いますが、このようなビジネスに関する方法であっても、コンピューターを介して実現するものであれば特許をとることができます。
まとめ + 愛媛県のICT系スタートアップに思うこと
まとめ
愛媛県のICT特許出願概況として、以下点が挙げられます。
- 出願数は30~50件/年程度であり、概ね大企業による出願である。
- ICTの内容として、スゴVen.掲載企業と関連深いサービス、マーケティング、公共サービス等がある。
愛媛県のICT系スタートアップに思うこと
大阪のスタートアップであるBABY JOBが、ユニ・チャームと共同でビジネススキームに関する特許を取得、事業化している例を確認しました。
スゴVen.に掲載されるスタートアップについて、例えば以下のような事業内容が紹介されています。
これらの事業内容の中には、特許として活用し得るビジネススキームがあると感じています。
- GPSデータ等を連動させた「観光アプリ」、オフラインでも避難支援できる「防災アプリ」 (株)プライサー
- 起業アイデア「チャレンジャー」とスキル支援「サポーター」のマッチングコミュニティ (株)アドリブワークス
- 愛媛の生産者と消費者を繋ぐライブコマース配信 (株)クリエ