愛媛県におけるDXに関する取り組み
愛媛県では、DX(デジタルトランスフォーメーション)による行政の効率化や県民生活の質の向上、地域経済の活性化などに取り組んでいます。特に以下の3つの分野;①行政、②産業、③生活でのDXを加速させています。
今回は、②産業のDXにおける官民共創の取り組み「トライアングルエヒメ」に着目してみます。
愛媛県デジタル総合戦略 – 愛媛県庁公式ホームページ (pref.ehime.jp)
①行政のDX:全20市町での行政手続きの標準化・オンライン化など
②産業のDX:官民共創、委託方式によるデジタル技術社会実装、県内の大学との連携によるデジタル人材育成など
③生活のDX:防災へのデジタル技術活用、県民のビックデータ解析による健康支援など
トライアングルエヒメについて
「トライアングルエヒメ」は、愛媛県内の3都市;松山市、今治市、新居浜市が連携して進めるDXプロジェクトです。この取り組みは、地域の産業や生活をデジタル技術で革新し、持続可能な社会を実現することを目指しています。
トライアングルエヒメ推進事業 「デジタル実装加速化プロジェクト」
R6年度採択企業は、継続事業:34件、新規採択事業:20件の計54件です。
業種別の割合を下図に示しますが、愛媛県の強みである観光、農業に関する事業が最も多く採択されています。
特に松山市では、観光業とデジタル技術を融合させた取り組みが進んでおり、松山城や道後温泉などの観光スポットにおけるAR(拡張現実)技術を活用した観光ガイドの提供や、シェアサイクルサービス「HELLO CYCLING」における人流データ分析による観光資源発掘や観光ルートマップ作成などが本事業として実施されています。
ARで地域の課題解決を進める愛媛県のワークショップを実施。自治体や地域おこし協力隊等のpalanAR(パラナル)| OpenStreetと三福快適生活が「トライアングルエヒメ」採択事業としてシェアサイクル活用のデータ分析事業を開始|
このような観光に関するDXについて、特許出願状況を確認してみます。
観光×DXに関する特許出願
特許出願状況の俯瞰
<検索条件>
観光×DXについては、特に意図する以下3つのIPC(国際特許分類)があるので、本IPC(全てor)×出願日が10年以内のもの×「生」のもの(出願係属中 or 登録)×日本出願として、1万5千件の母集団を得ました。
※観光×DXに特に関連が深いIPC
・G06Q10/02:管理、経営等に特に適合した情報通信技術で、予約のためのもの
・G06Q50/00:特定の業種のビジネスプロセスの実施に特に適合した情報通信技術(例.公益事業または観光業)
・G06Q50/10:特定の業種のビジネスプロセスの実施に特に適合した情報通信技術(サービス業)
<出願状況の俯瞰>
出願トレンド(下図左)をみると、トヨタ自動車・ホンダ自動車といった自動車メーカーや、NEC・富士通といったITベンダーがトップ出願人として挙がっており、出願数も近年増加傾向にあります。トヨタやホンダの「コネクティッドカー」や、NECの「位置情報分析ソリューション」等が有名であり、それら特許群を示しているものと推察されます。
技術分野(下図右)としては、検索IPC;G06Q50に関連深い「ITを用いた管理法」が最も多く、他にも「通信技術」、「AV技術」、「測定」、「移動」などの分野が多く挙がっています。観光業以外の技術も含まれている母集団ではありますが、当該技術分野の出願として、松山市で検討しているAR観光(AV技術)やシェアサイクルでの人流データ測定(通信、測定、移動)が含まれると推察されます。
トライアングルエヒメの事業;シェアサイクルサービスに関する特許の詳細について
上記母集団において、シェアサイクルサービス「HELLO CYCLING」に関する特許を確認しましたので紹介します。
<特許6646346号 特許権者:OpenStreet(株)>
松山市において、OpenStreet社と三福快適生活社が協働してシェアサイクル事業「HELLO CYCLING」に取り組んでいることは上述した通りです。この「HELLO CYCLING」というものですが、OpenStreet社のサイトに以下紹介があります。
新しい自転車の交通インフラ
HELLO CYCLINGはシェアサイクリングサービスを相互利用できる「交通インフラ」です。1つのアカウントで、異なる企業の自転車やステーションをシームレスに利用でき、これまでの限定的な利用や、複数の会員登録のわずらわしさを解消します。あらゆるボーダーを超えて、街から街、人と人を“HELLO”でつなげる新しいサービスです。1
ここで、該社の特許;特許6646346号における請求項1をかなりざっくり言うと、
『自転車シェア事業において、自転車の利用料金を、自転車をレンタルする事業者(第1事業者)と、駐輪場を提供する事業者(第2事業者)とに利益分配するシステム』です。
利益分配する定量的な方法も規定されており、例えば、下記請求項1では、自転車の価値(買値など)と、駐輪スペースの価値との比率を利用料金と掛け合わせて自転車レンタル業者と駐輪場提供業者で分配するようです。
また、比率の計算方法については、下位クレームで色んなバリエーションで規定されています。
(例えば、自転車や駐輪スペースの利用時間や時間帯、自転車の性能、駐輪場の立地など…)
てっきり、シェアサイクルの位置測定、及びそのデータ収集に関する特許と思っていましたが、『複数事業者がシェアリング事業を円滑に連携・実行するための特許』であり、シェアリング事業のプラットフォーム的特許でした。
この特許でいう「自転車をレンタルする事業者(第1事業者)」は(株)三福快適生活、「駐輪場を提供する事業者(第2事業者)」は愛媛県が斡旋した土地所有者(又は愛媛県自体)であり、OpenStreet社はそれらのまとめ役、といったところでしょうか。いや、おもしろいアプローチですね。
以下リンクのJR松山駅近くの駐輪場は私の実家の近くなので、機会があれば利用したいなと思います。
あれ、この駐輪場がある『たべもの市場sai』さん、閉店してる(寂しい)。。
※特許6646346号の【請求項1】
移動体のシェアリングシステムにおいて、一の移動体を利用したユーザに請求する請求金額を示す請求情報と、
前記一の移動体を提供する第1事業者を示す第1事業者情報と、
前記一の移動体を停留させた地点であるステーションを提供する第2事業者を示す第2事業者情報と、
前記一の移動体の資産に関する第1 価値と前記ステーションの資産に関する第2価値とを示す情報とを、
記憶部から取得する取得部と、
前記第1価値と、前記第2価値との比較に基づいて、前記第1事業者及び前記第2事業者に対する収益のうち前記第1事業者への割当てを示す第1比率と、前記収益のうち前記第2事業者への割当てを示す第2 比率とを決定する決定部と、
前記請求情報が示す前記請求金額と、前記第1比率とを乗算することにより、前記第1事業者情報が示す前記第1 事業者に割り当てられる第1金額を算出し、前記請求情報が示す前記請求金額と、前記第2比率とを乗算することにより、前記第2事業者情報が示す前記第2事業者に割り当てられる第2金額を算出する算出部と、
を備えたことを特徴とする情報処理装置。